海外ニュースで知る世界の流れ

興味のある英文記事を日本語で要約し、「柴田優呼@アカデミックジャーナリズム」でツイート。そのツイートの再録ブログです。英語のニュースを知り、世界の流れをつかむご参考にしていただければ。

米国が「ならず者超大国」になる日

2020年10月19日
米国が「ならず者超大国」になる日。
それは21世紀が、非リベラルな世紀となる時代の到来。
2040年までに米国は、成長する大きな市場と、高い軍事力の維持が可能な経済力を持つ、世界で唯一の国に。
技術発展で、海外の労働力や、資源への依存からも脱却。
リベラルな国際秩序を維持する必要を感じなくなる。
米国は戦後、民主的で資本主義的な生活様式と、リベラルな価値に基づく国際法秩序を守って来た。
数十か国に安保と海上輸送ルートの安全、米国ドルと米国市場への容易なアクセスを提供。
だからトランプの自国優先主義は一時的なもの、との期待がある。
だがそれは間違いで、大統領が代わっても同じ。
 
「米国ファースト」は、歴史上むしろ、米国でずっと行われて来た政策。
1945年より前、米国の国益は、金銭と物理的な安全の確保を、がむしゃらに追及することにあり、他国への影響には無関心。
自由と解放の信奉も、必要な時に国内外で、便宜的に採用されていた。
関税は、世界でも有数の高さだった。
米国は1880年までに、世界で最も豊かな国となった。
最大の市場、先進的な製造力、豊かな天然資源を持ち、外からの脅威もなく、諸外国との同盟に興味はなかった。
 
冷戦下だけが特別な時期だった。
1950年代初めまでに、ソ連は、欧州大陸の倍の軍事力を持ち、共産国家は、世界の35%の産業資源を占めていた。
それゆえ米国は冷戦下、安保と米国市場へのアクセスを、数十か国に提供し、保護した。
だが今、米国民の6割が、米国は自国のことだけに関わるべきだ、と考えている。
 
米国民はかつてのように、民主主義や貿易、人権の保護を唱えるのではなく、テロの阻止、国内雇用の確保、不法移民の抑制を求めている。
米国民の半数が、同盟国が敵国に攻撃された際、米軍を派遣することに反対している。
一方で、8割が国内の雇用を守るため、関税を武器にすることを支持している。
つまり「米国ファースト」は、トランプだけが唱えているものではない。
むしろ米国の政治文化の底流に常にあった流れに、掉さしたもの。
 
今後50年間、20歳から49歳の成人人口が増加する国は、世界の経済上位国20か国のうち、米加豪だけ。
日本や中国では、約4割、ロシアや独では、約2割減少。
インドは、2040年まで増加した後、急減。
各国で、高齢者のための支出が、GNPを圧迫。
中ロは、国内体制維持のため、軍事より高齢者福祉を選ばざるを得ない。
中ロが、軍事費を削減しなくても、軍備を近代化する余力はない。
つまり、米国の一人勝ちとなる。
 
世界各国は、景気停滞、巨額の債務、失業の恒常化、極端な格差に悩まされ、ナショナリズムと極端主義の温床となる。
東欧では今、超国家主義が勢力を伸ばし、ドイツでも右翼政党が、三番目に多い議席を獲得した。
 
米国の同盟国は、弱体化。
国内世論は分裂し、無関心層が拡大。
そんな中で米国が、モラルが欠如し国益のみを追求する、軍事国家の「ならず者超大国」となる道を選ぶ可能性。
既にトランプは、その方向に向かっている。
同盟国に、米軍の駐留費50%負担増を要求し、WTOを通さず、二国間で貿易交渉の決着を目論む。
米国は、国務省ではなく、国防省に力を持たせる。
米軍も変質。
同盟国の配備は縮小し、保護というより、処罰機関になる。
 
こうしたやり方は、アメリカ的でないとされるが、米国民の多くに、アピールしている。
もし以上の状況が続くと、最善でも米国は、「リベラルな国際主義」の、ナショナリスティックなバージョンを、採用することになる。
米国は同盟は維持しても、各国により多くの負担を求めるようになる。
貿易交渉に同意するのは、米国の規制と同じ基準を、採用している国に対してだけ。
国際機関に参加しても、米国の国益に反したら脱退する、と脅す。
民主主義と人権を促進するのは、地政的なライバル国を、不安定化させる目的のためだけ。
 
米国は、国際的なルールと制度を維持し、弱小国を助けることをしなくなる。
関税、経済制裁、ビザ規制、サイバー空間でのスパイ行為、ドローン攻撃などを駆使して、最大の国益を得ることを目指す。
他国との関係は、共通の価値に基づいた永続的なパートナーシップではなく、単なる取引相手との関係になる。
グローバルな問題に、進んで取り組む姿勢があるかどうかで、米国が他国を評価することは、なくなる。
民主主義国であるか、専制国家であるかすら、問題ではなくなる。
大事なのは、米国の雇用を増やし、米国本土への危険を減らす力があるかどうか。
だが、そんな力がある国は、ほとんど存在しないのが現状。
 
米国の商業圏は、西半球、特に北米にシフトする。
米国の貿易、及び世界のGNPの、3分の1を占める地域。
各国が、高齢化と機械化で停滞する中、北米のみが、経済成長に必要な要素を持つ。
今後も増える、巨大で豊かな消費者層、豊富な資源、高スキル・低コストの労働力の組み合わせ、高い技術力、平和な国際関係等。
 
米国にとっての、戦略的な同盟関係は、死文化する。
パートナーとして残るのは、2つのグループだけ。
1つは、豪加日英。
これらの国は、戦略的な地理関係を有し、その軍備諜報機関は既に、米国に組み込まれている。
日本以外の国では、労働人口が今後も増加するので、米国を支えるための税金支出が可能である。
もう1つのグループは、バルト海沿岸国、アラブ諸国、台湾。
米国は、彼らに軍備を提供するが、もはや防衛することは考えない。
その代わり、米国の直接介入なしに、中国やイラン、ロシアの拡張をチェックする役割を担わせる。
 
これらのグループ外にある、NATO諸国や韓国と、米国との関係は流動的になる。
もはやNATO諸国や韓国は、多国間同盟参加を、米国に求められることはなくなる。
むしろ米国の保護と、市場へのアクセスを得るため、二国間交渉に臨む立場になる。
もし米国に何もオファーしないなら、米国以外のパートナーを得るか、自力で防衛することになる可能性。
 
そうなると、世界は破滅に向かう、との声も。
専制主義と保護主義が高まり、1930年代の帝国日本とナチスドイツの役割を、中ロが演じる、とRobert Kagan。
ロシアは、安保と資源確保を狙い、近隣国に侵攻、東アジアで海戦が勃発、とPeter Zeihan。
これらは、極端な予測。
だが、人類史上で最も平和で繁栄した時期を築いた、戦後秩序の崩壊後、危機が高まるのは確実。
 
米国主導の国際秩序の下、世界各国は長らく、市場のアクセスや、サプライチェーンの確保、領土防衛のため、争う必要はなかった。
米国市場、米海軍、米国との安保のなせるわざだった。
独日、そして中ロさえ、その恩恵を受けて来た。
中ロは、歴史的な敵国と戦うことなく、他の国々との紐帯の強化が可能だった。
 
だが近未来の世界は、先祖返りした重商主義と、新帝国主義の支配の下に置かれる。
強国は、経済不安解消のため、安価な資源と膨大な消費圏を持つ、経済圏の形成を画策。
中国の一帯一路は、その先取り。
米国もそれに続けば、各国は、米中ブロックのどちらかに入るか、独自のブロックを形成するしか、なくなる。
そうなると、フランスは、アフリカの旧植民地諸国、ロシアは、旧ソ連邦との地域貿易機構を作り、ドイツは、欧州外のパートナーを求める可能性が高い。
 
冷戦下と同様、国連の機能はマヒし、NATOは解体。
米国は、NATO諸国の一部を、好きに選ぶ。
米国による安保の傘を失ったEUは、終わりを告げることになる。
 
気候変動や財政危機、パンデミックといったグローバルな問題への対処は、今回のコロナ危機と同様、お粗末なものとなる。
その結果、存続の危機に瀕する国家も出て来る。
1945年以来、国家の数は、46か国から200か国と激増。
だが大半の新国家は、資源や食料、国内市場等の面で、脆弱な基盤しかない。
既存国家の3分の2は今日、国際援助なしには、国民にベーシックなサービスを提供できない、とArjun Chowdhury。
 
つまり多くの国々が、国際援助、市場、輸送、軍事的保護を、かつてない規模で提供した戦後秩序に依存して来た。
それが消滅すると、国家が崩壊したり、他国に侵略される事態も起きる可能性。
アフガニスタン、ハイチ、リベリアは、最もその危険性が高い。
あまり気づかれていないが、貿易依存型のサウジアラビア、シンガポール、韓国は、市場が閉鎖的になり、シーレーンが軍事化すると、経済システムがうまく機能しなくなる。
 
だがこうした暗い予測が、必ずしも現実になるわけではない。
長い目で見ると、高齢化と機械化の進展で、世界は平和になり、繁栄する可能性。
高齢化社会は一般的に、戦闘的ではないからだ。
だが、そこに行き着く道は容易ではない。
 
今のリベラルな世界秩序を保つには、米国が国益に対して、かなり寛容な考えを持ち、国際秩序の維持を、国富と国力の追求より優先する必要がある。
米国はまた、リベラルな国際秩序への支持を、国民から得るため、国内で富の再配分をする必要がある。
だがこれらが起こる見込みは低く、米国のナショナリスティックな傾向は、続くだろう。
だから、トランプ政権は特異ではない。
 
米国は歴史的に、利己的な意図から、リベラルな外交政策を取ったことがある。
例えば米国は、米国製品の市場を得るため、欧州の帝国主義に反対。
またソ連を倒して、自らの国際支配を打ち立てるため、資本主義的な民主主義国を育てた。
これらは参考になる。
 
遠方の同盟国を防衛するため、自国民を殺すのは嫌でも、権威主義国の中ロが、地域の覇権国になることを、米国人は好まない。
このため米国は、米軍の前線での死者数を減らすため、防備の薄い地域にミサイルやドローン基地を、拡散して配置。
そうやって、中ロの拡張を封じ込めようとする可能性が大だ。
また米国のビジネスを保護するため、貿易相手国に、米国基準の労働、環境、知的財産保護を、採用することを求める可能性がある。
 
海外で民主主義を促進することに、もう興味はないが、外国の干渉から、米国の制度を守るための同盟は結ぶ。
このため米国は、民主主義国と連携し、民主選挙に介入する外国勢力に、集団制裁を加える。
そうした連携は最終的には、自由貿易や表現の自由を尊ぶ、リベラルなブロックの形成に発展する、と見られる。
 
こうした近未来の青写真は、魅力的ではないが、現実的ではある。
歴史上かつてない、人口動態の変化と技術革新の起きる時代、自由世界の連携を維持するのに役立つ。 
以上、世界で高齢化と技術の機械化が進んだ結果、米国が一人勝ちして何が起こるか、Michael BeckleyによるForeign Affairsでの予測。
Foreign Affairs@ForeignAffairs
It would be comforting to blame the United States’ nationalist posture on Trump alone, but Americans’ support for the postwar liberal order has been shaky for decades, Michael Beckley writes. What will happen if the country continues down this path?
trib.al/jVA36Vl

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Foreign Affairs

《一言》

国際社会と米国の、かなり暗い未来図。

だが、利己的な理由に基づいていても、リベラルな価値観は存続する。

ここでは言及されていないが、米民主党支持者や西海岸の住民層、若者世代は、リベラル。

ナショナリスティックであっても、彼らがリベラルな価値を棄てるとは、考えにくい。

実際米国人はかなり、ええかっこしいだ。

NATOとEUの解体など、衝撃的な予測もされている。

韓国やサウジ、シンガポールの不安定化など、国名を具体的に言及しており、観測気球的な記事か。

日本がなぜ、米国の同盟国でい続けるのか、説明はなし。

見返りに何を求められるか。

米国産業の、利益追求への言及もない。

強欲資本主義の草刈り場となり、日本の国民生活が犠牲になる恐れも。

日本は、中国の抑えの役割を期待されているのは確か。

中国の脅威を煽りつつ、決定的に敵対しない、というゲームを強いられる。

米国の要求をことごとく受け入れるのを避けるためにも、中国と関係を保つヘッジは必須。

中国を戦争に追い込んで、得する者はいない。

駐留米軍を含め。

しかし、なんという予測図。